就活生をお好み焼き屋に連れて行く理由がある

彼らとの行き先は、すぐに決まった

先日のこと。普段から親交のある大学生ふたりと食事に行く機会があった。
1人は男性(Aくんとする)、もう1人は女性(Bさん)で、ふたりとも3年生である。

今日は何が食べたいか聞いてみる。勢いのある答えが返ってくる。

Aくん「腹いっぱい食べたいっす! 美味しいものを!」

……それなら行き先は決まっている。
数分後には、私たち三人は賑やかな店内に座っていた。目の前には“鉄板”がある。馴染みの『お好み焼き屋』だ。

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私はお好み焼きが“大好き”なのである。
食べるだけでなく、焼くのも好きで、何しろ年季が入っている。かなりの腕前だと自負している。

素早くオーダーを済ませる。すぐに材料と道具が運ばれてくる。鉄板に熱が入る。油の焼ける香ばしい匂い。もちろん焼くのは私の役目だ。ジューッという(これ以上なく)食欲をそそる効果音をBGMに、Aくん・Bさんの最近の話を聞く。

どんなタイプの就活生でも、共通の悩みがある

AくんもBさんも、この3年生の秋までは精力的に学生団体での活動を行っていた。企業から協賛を得ながら多くのイベントを打ったり、学園祭の企画・運営をしたりと責任ある立場でやりがいを持って動いていた。

そんな彼らも、『就活生』となっていた。
私のつくった極上のお好み焼き(牛スジ入り)をひっきりなしに口に押し込みながらも、出てくるのは就活に関する“悩み”。

「行きたい業界や企業が定まらない」
「自己分析がうまくできない」
「人に対してうまく自己PRができない」
「色々な人に相談するけれど、色々な答えが返ってきて結局、迷う」

就職活動初期にほとんどの就活生が口にする悩みだ。

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彼らふたりであるが、相当に『優秀』な部類に入る学生である。
挨拶・振る舞いにはじまりメールや電話の対応、レスポンス、課題に対しての企画提案、プレゼンなど、どれをとってもその辺の若手社員よりずっとできる学生である。

そんな彼らなので、正直私は(このお好み焼き屋に来るまでは)就活にもほとんど悩まないだろうと思っていた。
自分たちの「できる」ポイントが伝わればどの企業でも欲しがる人材であると思うからだ。

が、実際は悩んでいる。かなり、悩んでいるのだ。彼らほどの「目立つ」「とがった」学生が、就活生としてのなんというか、非常にスタンダードな悩みに引っかかっている。

(驚いたことに、Bさんは10円ハゲになっていた……)

学生という身分からの脱却を始める時期、将来の自分像を思い浮かべるにその不確かさとも相まって、様々な不安が襲ってくるのだろう。

答えになる材料は、すでに揃っている

お好み焼きは牛スジを軽くたいらげ、次の海鮮ミックスがもうすぐできあがる。

やりたいことを見つけるのは本当に大変だ。
やりたくないことを見つける方がよっぽど楽である。

周辺だけでなく、自己の中にも溢れる情報の中で彼らももがいている。

そのとき彼らにアドバイスしたのは、

経験の洗い出し、要素分解と整理をする、その引き出しをいつでも開けられる状態にする
言語化する。志望動機などとヒモ付けて話せるようにしておく(業界・企業研究が有効)
それを第三者と話すことでの客観的評価を得、そこから改善を重ねていく

……という内容で、つまり、

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① 材料をそろえる=経験の洗い出しと要素の整理

お好み焼きを作るには何が必要か? 必要な材料(粉・ダシ・水・キャベツ・山いも・海鮮・牛スジ……)をそろえるという行為は、自身の経験を棚卸しし、行動できるように準備することだ。
キャベツは丸のままだと入れられないから千切りにして(果たして何ミリで?)、山いもはすりおろして(いや、少しシャキッと残るように叩きで?)等、どう加工したら美味しく仕上がるかを考える。

② どの具をメインに選ぶか=企業・業界研究が重要

たとえ素晴らしい(自分にとって最高の)お好み焼き(海鮮ミックス)ができたとしても、海鮮嫌いにそれをそのまま出してはマイナスだ。この会社は海鮮好きなのか、牛スジ好きなのか、出す相手の好みをきちんと把握して調理しよう。(あえて牛スジ派に海鮮を薦めるのも熱意と理由によっては有効だ。広島出身者に関西風お好み焼きを勧めるのはかなりのリスクを伴うが、うまくいくとあなたはその相手の人生を変えるかもしれない!)

③ 混ぜ具合、焼き具合=経験あるのみ!

焼く技術、つまりはアウトプットしていく。形にしていく行為。これはもちろん練習あるのみ、である。
生地の具合、鉄板やバーナーのクセなども把握できていれば、もちろん素材の良さを最大限活かしたパフォーマンスが可能だろう。

焼きが上手になるまでは、材料を無駄にしてしまった、この素材の組み合わせでいいのか、道具が悪いんじゃないかとか、非常に多くのことを考えるだろう。けれどそれらすべての時間は絶対に必要なのだ。

④ いざ実食!=客観的評価を得る

そしてもちろん、誰かに食べてもらって感想をもらうべきだ。馴れ合いでなく厳しい批評としての意見をもらえるからこそ、そこに向上がある。

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“就活生”このわずかで貴重な時間

……この日、何枚焼いたか(私が)、どれだけ食べたか(彼らが)は定かではないが、彼らには就活のクオリティを上げるための練習相手として、知り合いのある社会人を紹介した。

今、彼らはその社会人から様々な宿題を出されながらも頑張っている。

就職活動は長い人生のなかではほんのわずかの期間だが、これからの未来に大きく影響を与える、非常に重要なイベントである。

この時期、頑張れるか、頑張れないか。

これから就職活動が本格化していく。ますます彼らは悩むだろう。

ただ、私は多くの就活生と接する中で、経験的に知っている。
就活前に比べて就活後の学生が一回り大きくなっていることを。

実社会と肉薄し、そして悩み、現実を受け止めながらも進んでいかなければならない状況で、彼らを成長させていく『就職活動』というものはある種の通過儀礼として機能している。

この経験は間違いなく、社会人になって役に立つ。自己分析・PRしかり、業界研究・企業研究しかり。

結果としての就職先は、縁、によるところも多い。が、頑張った事実というものは確実に自分自身に蓄積されていく。
結果そのものに一喜一憂するのではなく、そのプロセスを大事にして、楽しみながら前向きに取り組んでほしいと思う。
買ってきた出来合いのお好み焼きよりも、自分で焼いたもののほうが美味しいということは、誰だって知っている。多少見た目が不恰好だとしても。

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今だけでなく、その先のこと、これからずっと続いていく未来のその先まで広い視野でを持って、シームレスに『就職活動』というものを捉えていただければと思う。